時代の声(2020年1月1日)

明けましておめでとうございます。
2020年も何卒よろしくお願いします。

今年は、子年(ねずみどし)です。ねずみは大黒天の使いとして、富や福のシンボルとされています。

昨年は、その富や福の源泉である地球の資源が、地球温暖化の影響による天災の被害を受けて減少したり、ノートルダム寺院や首里城といった人類が重んじてきた歴史的建造物が、人災により焼失してしまうという辛い出来事がありました。また国際情勢に目を向けると、香港では中国政府への抗議運動が激化し、米中間では貿易摩擦が激化、日韓摩擦も収束することなく対立が続いています。
一方で、2019年は人々の間で希望や幸福感が伝播した年でもありました。38年ぶりのローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇の来日や、皇太子徳仁親王の天皇即位に伴う令和という新たな時代の到来を、多くの人々が祝福しました。

今までも、これからも、天災や人災は繰り返されていくでしょう。
しかし、どのような時代に生きるどのような命も、かけがえのないものです。

昨年の連載の最終回では「時代の声を聴く」というメッセージをお伝えいたしました。

77億人の地球人は、今、何をささやいているのでしょうか。
そして、かけがえのない地球の声は、今、何を訴えているのでしょうか。

私たちが生きているのは、制約条件と人間の拡張性が地球規模で衝突する、人類史上初めての時代です。

科学の力で、世の中は良くなる。
技術の力で、世の中は良くなる。
金融の力で、世の中を変えることができる。

近代社会の発展を支えてきたこの「常識」が、産業革命後の社会で急速に加速した結果、人間の尽きることのない貪欲さを刺激し「自分たちさえ豊かであればいい」という利己主義の増幅を招きました。しかし、科学や技術や金融の力だけでは、自己中心的な欲望を乗り越えていく「人間性」を併せ持った成熟社会にはたどり着けないのです。

人々の行動に変容を起こす手段としては、宗教や教育や事業があります。

宗教は、今なお世界中で、多くの人々の心と生活を支えています。

しかし、釈迦やキリストが誕生した頃の地球人口は1億人程度だったそうです。また古代人の寿命について、最も古い推計でローマ時代のエジプト人の平均寿命が24歳であったという記録があります。そうした時代背景で生まれた約2,000年前のメッセージが、人口が77億人になり、医療の発達で平均寿命が72歳となった現代社会で生きる人々に、広く通用するものなのか、私はやや疑問を抱いています。

事業は、社会や人々の生活様式の近代化を促し、便利や安全を提供してきました。

しかし、経済成長を目的に「大量消費」や「所有」こそが最大の幸福であるとして、人々の欲望を刺激し購買動機を増幅させ続けた結果、社会の持続性を損ねてきたこともまた事実です。

教育は、これまで「人間の尊厳を守る」という近代の哲学に沿って、個人の能力を高めることで「自由」と「自立」を目指してきました。しかし「人間の尊厳」を名目に、人類が物質的豊かさや生活の便利さを享受し続けてきたことで、地球環境の破壊は待ったなしの状況に至っています。また個人の幸福を目的とした「自由」と「自立」の推奨は、結果的に「精神的飢餓」とも言える孤独を社会に増幅させることになりました。

宗教は、長寿の時代に生きる人々の心に寄り添ったメッセージを届け、人や自然の関係性を価値とする社会づくりのために人々の行動を変えることができるのか?
事業は「消費」「所有」から「共感」「共有」へと人々の購買動機をシフトするための、新たな産業基盤を構築できるのか?
教育は「人間の尊厳を守る」という哲学から「生命の尊厳を守る」という哲学の元で、理想の社会づくりのための知恵を提供できるのか?

それぞれの分野でこうした革新が求められる時代に、私たちは突入しているのだと思います。

原始、人々は、利己主義的に消費や所有をすれば、群れから追い出され、生存確率が厳しくなることを知っていました。
自然の回復力を越えて収奪をすれば、自らの生存確率が低くなることを知っていました。
多くの他の存在に支えられて自らの命が在ることを知っていました。

人類は、そのような記憶を忘れてはなりません。
その記憶を頼りに、時代に耳を澄ませすると、
77億人の人類からは「安らかに暮らして生きたい。」
かけがえのない地球からは「生態系を守れ!」
そんな声が聴こえてくるように思います。

人間が自然を扱う時代から、私たちも自然という大きな生命が持つ記憶の声に従い、その生態系(エコシステム)の運動の一部になることで、新しい時代を築いていくことができるのです。今、それに気づいた人々が、謙虚さを以て多くの人々と知恵や知識を集め、新しい「智慧」を作り出す必要性を感じ始めています。

今年は東京オリンピックが開かれます。1964年、アジアで初めて開催された東京オリンピックから56年が経ちます。高度成長から停滞までの56年でこの国が学んで来たことを基に、新たな社会づくりを始めなければなりません。

産業革命の次なる社会革命の到来。その予兆の声を聞き、動き出す時は、今です。

アミタグループは社会のサステナブル化を牽引する「未来デザイン企業」への進化を目指し、20201月より、事業会社アミタ株式会社の経営層を刷新しました。

急速な社会変化に対して感度の高い若い世代を主要な事業会社の経営に据えることにより「未来デザイン企業」への変革を加速すること、ひいては持続可能社会の実現に貢献することが狙いです。

新たに始動する本年のアミタグループを、どうぞよろしくお願いいたします。

2020年 元旦
アミタホールディングス株式会社
代表取締役 熊野英介


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■2019年連載「信頼の世紀―微力なれども無力ではない―」

アミタホールディングス株式会社の代表取締役である熊野英介のメッセージを、動画やテキストで掲載しています。2019年度啐啄同時は「信頼の世紀―微力なれども無力ではない―」をテーマに、「誰一人取り残さない」持続可能な未来創造に取り組まれている方々との対談をお送りしました。

「啐啄同時」連載一覧


■代表 熊野の書籍『思考するカンパニー』

2013年3月11日より、代表 熊野の思考と哲学を綴った『思考するカンパニー』(増補版)が、電子書籍で公開されています。ぜひ、ご覧ください。

※啐啄同時(そったくどうじ)とは

鳥の卵が孵化するときに、雛が内側から殻をつつくことを「啐(そつ)」といい、これに応じて、母鳥が外から殻をつついて助けることを「啄(たく)」という。雛と母鳥が力を合わせ、卵の殻を破り誕生となる。この共同作業を啐啄といい、転じて「機を得て両者が応じあうこと」、「逸してはならない好機」を意味するようになった。

このコラムの名称は、未来の子どもたちの尊厳を守るという意思を持って未来から現代に向けて私たちが「啐」をし、現代から未来に向けて志ある社会が「啄」をすることで、持続可能社会が実現される、ということを表現しています。