「いい会社」への投資で「いい未来」を創る ~お金には想いを伝える力がある~(前編)
今回対談相手にお迎えするのは「いい会社」の成長を「投資」で支える鎌倉投信株式会社 代表取締役社長の鎌田恭幸氏。
2008年に設立された鎌倉投信は、個人投資家の資産形成と社会の持続的発展の両立を目指し、公募投資信託「結い2101」を運用する独立系の資産運用会社です。実は鎌倉投信設立前からお互いを知る2人。2010年には、アミタを「いい会社」として投資先に選定していただき、会社同士のお付き合いも10年以上に。改めて鎌田氏が「投資」の世界に飛び込んだ背景、設立前後の苦楽、未来創りについて語り合いました。
(対談日:2024年9月12日)
※アミタが「いい会社」に選定された理由はぜひ鎌倉投信のHPよりご覧ください
→https://www.kamakuraim.jp/about-yui2101/the-company-finder/detail/---id-14.html
「投資」との出会い。限界を感じた金融空間の中での利益を生み出す仕組み
熊野:まず、なぜ投資の世界に入ったんでしょうか?
鎌田氏:不純な動機で恥ずかしいのですが、大学の先輩から「メガバンクや証券会社と比べると、信託銀行は仕事が楽なわりに給料がいいから、お前も来ないか」と誘われたからなんですよ(笑)金融業界は当時すごく人気がありましたから、悪くないかなと思ったんです。不動産バブル絶頂期の1988年に、大手日系信託銀行に入行しました。
入行してみたら、会社がというよりも、金融業界全体として「いかに儲けるか」とか「いかにナンバー1になるか」という話ばかりなんですよね。不動産を短期間で転売して手数料を儲けて「自分は会社に貢献している」と喜ぶのはやっぱり違うんじゃないか、と。「これって世の中の役に立っているのかな」と、入行してすぐに感じました。
熊野:悶々としていたんですね。
鎌田氏:はい。ただ、ラッキーだったなと思うのは、入行して比較的早く、年金の資産運用の部署に配属になったことです。堅実な資産運用のあり方を欧米から学ぶことで、健全な成長欲求を満たしてくれた部分はあると思います。
熊野:もともと信託は、十字軍遠征の頃の「ユース」という制度が起源と言われているそうですね。遠征に赴く兵士が不在にする間、信頼できるものに自身の土地を譲渡し、管理を任せると。「他のものに取られんように頼むぞ」みたいな世界ですよね。信託を受けて、その約束を守るという。そういう機能が、年金運用には色濃く残っていたのでしょうか?
鎌田氏:残っていました。財産管理や年金運用は、受託者責任とか、善管注意義務、お客様の財産を保全するという思想があったので、そういう意味では信託銀行としての使命を重んじる文化がありました。
熊野:信託銀行にはどのくらい勤めていたんですか?
鎌田氏:信託銀行には11年勤めて、その後専門性を磨きたいという想いで、外資系の資産運用会社に転職しました。外資系の運用会社は、非常に多様性を重んじる社風がある一方で、金融工学を用いた運用の領域で高い専門性を持つ会社だったんですよ。すべての投資先を数字で評価して、人に会うこともなく投資をしていました。
熊野:統計的に確率を?
鎌田氏:はい、数学的手法を使って市場動向や投資戦略を分析する業務で、「クオンツ」と言います。
熊野:専門的ですね。
鎌田氏:はい。世界最先端の運用技術はこうなんだと、非常に勉強になりました。一方で、コンピューターや今でいうと生成AIなどの技術がどんどん進化していくことで、金融の世界に限界を感じてしまったんです。実体経済とは違う、金融空間の中だけで利益を生み出す仕組みができてしまうみたいな。それはちょっと違うなと思い、離れることを決意しました。「本当に世の中の役に立つ金融とは何か」「いかに稼ぐかではなくいかに社会をよくするか」という自分の精神性に立ち返ることにしたのです。
家業が教えてくれた信頼関係
熊野:その「いかに社会をよくするか」という精神性は生まれ育ったところの風土や環境の影響が...?
鎌田氏:大きいですね。私の実家は小さな食料品店を営んでいました。昔よく町にあった万(よろず)屋で、主に母親がお店に立ち、父親は農業をやっていました。収入は低く、私は奨学金で学校に通っていましたが、貧しいという感覚は全くなく、むしろ豊かさを感じながら育ちました。心の豊かさや貧しさは経済条件で決まるものではないと、子どもながらに感じていたように思います。
でも私が中学、高校生ぐらいのときに、近所にスーパーマーケットができて、お客さんがだんだん来なくなったんです。それでも母は、元旦を除きほぼ毎日店を開けていました。「もうお客さん来ないんだから、閉めたらいいじゃん」と言ったら「近所の子どもがアイスクリームを買いに来たとき、店が閉まっていたらかわいそうでしょう?」って言うわけですよ。「そのために店を開けるの?」と聞くと、「それの何が悪いの?」みたいな。
商売としては下手なんですけど、今思うと、お客様に必要とされる存在であることが大事なんだと教わったなと。それに、近所の方々とのお金のやり取りは、熊野さんはお分かりだと思うんですけど、通い帳っていう帳面なんです。帳面に何をいくつ買ったかを記載しておき、月1で支払う。つまり「ツケ」なんですよ。
熊野:通い帳があったんですか!?
鎌田氏:はい、ぎりぎりありました。信用、信頼の取引ツールなので、きちんと支払ってもらえます。信頼関係の中で成り立つ経済圏は、お金のロスがないんです。
熊野:僕より若い人で、通い帳を実体験で知っている人がいるのに、びっくりしました(笑)
これが鎌田さんの精神性の根っこにあるんですね。
鎌田氏:はい、もともと私のメンタリティとして、草の根の社会貢献があるんですよ。「本当に世の中に役に立つ金融って何だろうか」と考えたとき、外資系を離れることを決意しました。その頃の金融商品や金融業界はある種の暴力性ともいうべき権力を持っていて、「お前ら、もっと株価を上げろ」「業績を伸ばせ」というパワーがあったんですよね。私はそこに本当に社会をよくするという思想を感じなかったので、かつての同僚に声をかけて、半年ほど議論をしました。この同僚が創業メンバーです。
どういう仕組みで世の中をよくするかっていうと、自分たちだけでは世の中はよくならないので、いい会社に頑張っていただこうと。世の中には、すでに頑張っている人や会社、組織があるじゃないですか。金融や投資を通じて、その人たちを応援することができたら、自分のやりたいことに近づくんじゃないかなと思ったんです。
鎌倉投信が考える「いい会社」というのは、会社に関わる全ての人との調和を図りながら成長する会社なんです。社員とその家族、取引先、顧客・消費者、地域社会、自然・環境、株主等を大切にして、持続的で豊かな社会を醸成できるような「いい会社」に投資したい。
こうして鎌倉投信のコンセプトや事業モデルにたどりつき、志のある想いをつなげる機能としての投資信託をイメージして、2008年11月に鎌倉投信を立ち上げました。
鎌倉投信の誕生。出資者が「お金」ではなく「社会」を見る仕組みが生まれた
熊野:鎌倉投信の設立前に、鎌田さん、アミタの本社に来られましたよね。
鎌田氏:はい、伺いました。確か会社は設立していて、投資信託を設定する前だったんじゃないかな。
熊野:お話を伺って、びっくりしたことを覚えています。本当にそんなことができるのかなって、ひたすら感心したんですよ。あのとき、いつまでに何口集めるみたいな目標がありましたよね。それを聞いて、その1/10でも達成したら、世の中が変わった証明になると思いました。否定的にとらえていたのではなく、「すごいことができる時代になったな」とポジティブな夢を見させてもらいたいという気持ちが強かったと思います。
鎌田氏:はい。「世の中の希望だ」「本当に世の中をよくするいい会社を応援して、いい社会、いい未来を創るっていう考え方で10億円でも賛同者が集まれば、世の中が変わるな」というようなことをおっしゃっていただきましたね。
熊野:出資者が、お金ではなく社会を見るという仕組みじゃないですか。そういうファクターが生まれて動き始めたら、「豊かな経済のために疲弊する社会」ではなく、「豊かな社会のための健全な経済」を目指す「新しい市民」が生まれると思ったんです。
鎌田氏:会社をつくったのは、2008年9月のリーマンショック直後の11月だったので、金融経済大困難のど真ん中でした。
熊野:リーマンショックのときは社会全体が思考停止になりましたよね。これは直感的に恐慌が来ると。そもそもルールが変わり始めたなと感じたのが、リーマンショックよりも以前の2001年のアメリカ同時多発テロです。経済のメカニズムと国家のありようを考えて「国のかたちが変わる。今までとルールが変わる」と思い、アミタも2004年から岡山県西粟倉村や神奈川県藤野町などの地域に入り始めたんですよね。
「上場前に何してるんだ?」と冷ややかな目で見ていた人もいたと思います。でも、雇用と市場のバランスが崩れると恐慌が起きますし、サイクル的に今後も恐慌が起きると思っていました。それに備えて早く直接金融の道をつくらないといけないというのが、アミタが上場した大きな動機の1つでもあったんです。
鎌田氏:そうだったんですね。リーマンショックの元凶になったのは、デリバティブ(株式や債券など原資産から派生した金融商品)ですね。価値がないものを、価値があるものと混ぜこぜにして、いかにも価値があるもののように見せて、レバレッジを効かせていた。つまり、人が頭で世の中や自然界にないものをつくり出して、実体のない経済圏を膨らませていくと、何か前提が崩れたときに制御できなくなるんですよね。これは安全だ、大丈夫だという前提でつくられていたものが、誰も制御できなくなる。要は、人の過信です。
熊野:僕はあのとき、アメリカだけでなくヨーロッパでも市場低迷が始まり、世界の工場が集まる中国も低迷すると思いました。つまり、グローバル経済が縮小したら、内需に資金が集まると考えたんです。先ほど申し上げたように2004年から地域に入って、内需拡大に向けた事業挑戦に経営資源の半分以上を注いでいましたね。でも違った。驚いたのは、リーマンショックから半年ぐらいで中国が右肩上がりになったじゃないですか。
鎌田氏:そうですね。
熊野:低迷するどころか、中国は世界経済の主役となったわけですよ。「これは何が起きているんだ?」と。当時の世界のGDPは約64兆ドルぐらいだったけれど、株式市場の時価総額は、その4割近くの28兆ドルが約2ヶ月で消えたでしょう?それで僕、「恐慌や」と思ったんですよ。でも、あのときの金融経済は680兆ドルぐらいあったので、4%が消えただけ。それは輪転機を回したら戻るじゃないですか。「ああ、そういうことか」と。実体経済と金融経済、こんなにギャップがあったんだと分かりました。
投資が祈りに変わり「お金には想いを伝える力がある」と確信
鎌田氏:鎌倉投信を立ち上げてから気づかされたことがあります。きっかけは東日本大震災でした。震災が起きたのは金曜だったので東京株式市場は反応しなかったんですよ。みんな、何が起きているかよく分かっていなかった。しかし、事態が深刻だと分かった週明けの月曜、火曜の2日間で、株価が20%暴落したんですね。マーケットが2割下がり、100兆円の富が一瞬にして消えました。パニック売りだったんですよ。
熊野:そうなんですか。
鎌田氏:はい。一方、そのとき鎌倉投信のお客様は500人ほどいらっしゃって、営業を始めてまだ1年くらいでしたが、マーケットが暴落する中、当時の最大の入金件数が震災の翌営業日だったんです。売却された方はほぼゼロでした。
熊野:それはすごいな。
鎌田氏:私たちは銀行や証券会社を経由せずにお客様に直接販売していますから、お客様からメールや手紙をたくさんいただきました。「こういう時だからこそ、いい会社を応援していこう」「東日本の復興支援に自分は直接関与できないけれど、投資を通じて世の中を元気にできるのであれば、少額だけど投資する」などですね。
底値で買おうといった欲ではなく、祈りとも言えるような「世の中のために」という純粋な想いを持ったお金です。「ああ、本当にこういう人たちがいるんだ」と。「お金には想いを伝える力があるんだ」ということを確信しました。
熊野:希望を感じる出来事ですね。今「結い 2101」に参加されている人は何名いらっしゃるんですか?
鎌田氏:お客様が2万2000人ぐらいで、運用資産はおよそ470億円(2024年9月時点)です。
熊野:2012年の受益者総会に投資先企業として参加させていただいたとき、お子さん連れのお母さんなどがいらして、真剣な質問をいただきました。「顔の見える関係性、これが鎌田さんがしたかったことなんだ」と思ったのを覚えています。
鎌田氏:そこでも、お客様に気づかされたことがありました。アミタさんをはじめ、いろいろな「いい会社」の取り組みをお客様に知ってほしいと思って受益者総会を始めたんですけど、びっくりしたのが、いろいろな投資先の話を聞くと、お客様に行動変容が起きるんですよね。
各社のみなさんにいつもお願いするのは、「株価や業績の話はしなくていいですよ」と。自分たちの会社が、誰のために、何のために存在するのかという原点や、会社のビジョン、ミッションについて話してほしいとお願いしています。
そういう話を聞くと、お客様の心にも変化が出てくるんですよね。例えば、寄付を始めたり、買い物の仕方が変わったりする。大事な人に何かを贈るときに「結い2101」の投資先の中から想い入れのあるものを選ぶんです。
投資の価値として、経済的なリターンを生むだけでなく、いい会社を応援することで社会をよくするという社会価値創造の側面は想定していたんですが、人間的成長にもつながるんだなと受益者総会でお客様の様子を見ながら感じました。一人ひとりの行動変容につながることで、本当の意味での社会的インパクトが生まれるんだと思います。
最近は、投資の究極の価値は、新たなものの見方や、未だ気づいていない自分自身の発見、知らなかった何かとの出会い、そういうものなんじゃないかなと思っています。
熊野:そういう意味では、お客様には普通の投資ではなく、今お話ししたような社会的な参画欲求として社会に関わりたいという気持ちが...
鎌田氏:あると思いますね。
熊野:その参画欲求が顕在化して目に見えるのが受益者総会なんですね。「私はここに参画しているんだ」という感覚で、ぼんやりとした自己を再確認するのかもしれないですね。
鎌田氏:そうですね。「自分はこういう考えに共鳴・共感するんだ」とか「こういうことを本当はやりたかったんだ」などと感じる瞬間が、いろいろなところであるんだと思います。
熊野:同じ場に集まる人の空気を感じて「自分だけではなく、こういう人がいるんだ」という気持ちにもなれるんでしょうね。
鎌田氏:はい、目に見えない何か温かい空気はありますね。
(後編へ続く)
対談者
鎌田 恭幸(かまた やすゆき)氏
鎌倉投信株式会社
代表取締役社長
大学卒業後、日系信託銀行、外資系資産運用会社にて資産運用業務に従事。2008年11月に鎌倉投信株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。一貫して、投資や資産運用に係る仕事を通して、会社経営の在り方、金融や資本主義の在り方を見つめてきた。2010年3月、主として上場企業の株式を投資対象とした公募型の投資信託「結い2101(ゆいにいいちぜろいち)」の運用・販売を開始。2021年3月、これからの社会を創発する可能性を秘めたスタートアップを支援する私募型の有限責任投資事業組合「創発の莟(つぼみ)」の運用・販売を開始。
独自の視点で「いい会社」に投資し、多くの人と共にその発展・成長を伴奏・支援することによって、よりよい社会、よりよい未来の実現を目指している。
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