関係性で創る、これからの未来(後編)
今回対談相手にお迎えするのは「いい会社」の成長を「投資」で支える鎌倉投信株式会社 代表取締役社長の鎌田恭幸氏。
2008年に設立された鎌倉投信は、個人投資家の資産形成と社会の持続的発展の両立を目指し、公募投資信託「結い2101」を運用する独立系の資産運用会社です。実は鎌倉投信設立前からお互いを知る2人。2010年には、アミタを「いい会社」として投資先に選定していただき、会社同士のお付き合いも10年以上に。改めて鎌田氏が「投資」の世界に飛び込んだ背景、設立前後の苦楽、未来創りに必要不可欠な「いい会社」について語り合いました。
(対談日:2024年9月12日)
※アミタが「いい会社」に選定された理由はぜひ鎌倉投信のHPよりご覧ください
→https://www.kamakuraim.jp/about-yui2101/the-company-finder/detail/---id-14.html
社会モデルはひとつではなく、複合的に生態系的につながっていく時代に
熊野:さて、前編では鎌倉投信が生まれた背景と鎌田さんが感じた「投資が持つ本当の力」についてお伺いしました。後編では、これからの社会モデル、そして変化する時代における経営者としての苦しみなどもお聞きしていきたいと思います。
さっそくですが、近代の経済発展を支えてきた「グローバル経済のもとで世界中の資源やエネルギーを集め、人口ボーナスを頼りに安定生産・安定供給する」というこれまでのリニアモデルが、コロナパンデミックやウクライナショックなどによって終焉しましたよね。鎌田さんは次なる社会モデルをどうお考えですか?
鎌田氏:経済がグローバル化したことで、市場原理が通用する経済圏が一気に拡張して、私の実家の万(よろず)屋で使っていた通い帳のような、顔の見える信頼に根ざした経済空間とは大きな距離ができてしまいました。本来経済とは、お金のやり取りを通じた人のつながりなんですが、これがほとんど市場取引になってしまい、関係性が分断されてしまった。
その結果、環境問題や戦争、地政学的なリスク、格差などにつながったと思うんです。グローバリゼーションを必要とした資本主義が、ある種、得体のしれない怪物みたいなものを生み出した感覚があります。
今、それをどう修復するかという地点にきていますが、これを再構築できる「こうすればいい」という正解の経済モデルは絶対にないと思います。いくつかの仕組みが複合的かつ生態系的につながっていく中で緩やかに進化していくものではないかと。その1つが、アミタさんが発表した事業ビジョン「エコシステム社会構想2030」だと思っています。
小さな経済圏を形成する多様な地域が次々と生まれつながっていく。経済空間をコンパクトにしていく発想ですね。自治体も自前では社会保障費などを補いきれない中で、地域経済と地域社会をつなぐ仕組みとして、互助共助のボランタリーな役割を担う人たちや社会課題の解決を目指すスタートアップ企業をどう取り込んでいくか。今まさに、試行錯誤されている時期だと思っています。変化する時代に対応できる社会の在り方とはなにかを模索する時期ともいえるかと。
熊野:おっしゃる通りですね。そして、我々経営者も時代の変化についていかないといけない。この数年間はまさしく何が起こるかわからない、第2のギリシャショックやパンデミックが起きる可能性もある。次なるショックに備えた準備が必要です。
設立時のミッションやコアコンピタンスは守りつつも、手法は時代に合わせて常に変容させていかないと淘汰されてしまう。そこに経営者の苦労があると思うんですが、鎌倉投信を設立されてから一番ご苦労された時期はいつ頃でしたか?
鎌田氏:やっぱり会社を立ち上げた頃が一番、経営的には苦しかったですね。鎌倉投信の事業モデルはシンプルで、お客様からお預かりしたご資産の約1%を、管理報酬としていただきます。2010年の初年度に集まったご資金が267人から約3億円で、知名度も実績も資本力もない会社でしたが、そこから口コミで共感の輪が徐々に広がっていきました。1年目の売上は3億円の約1%で300万ですが、実は経費がざっと9000万かかっていて(笑)2年目の売上が700万、3年目でようやく1000万円を超えたのですが、その時の経費が1億ですから、やればやるほど赤字が膨らむ「デス・バレー(死の谷。次の段階に発展しない状況などを指す)」が5年ぐらい続きました。
資本コストを下げるのは「関係資本」であることに気づかなければならない
熊野:設立当初から、鎌倉の古民家を改修して事務所にされていましたよね。あれは、度胸がないとできませんね。
鎌田氏:ブランド力がない分、自分たちの立ち位置や考え方を示したかったんです。
熊野:これをやるという決断力と仲間の可能性を信じる力がないと、できないことですね。
鎌田氏:そうですね。創業メンバー4人で「自分たちの考え方を伝えやすい場所で起業しよう」と相談し、駅前のビルなどではないよなと。2101年という次の世紀を見据えたファンドをつくるのだから、それを感じることができる空間にしたかったこともあり、鎌倉に行き着きました。自然と伝統文化があって、古いものを大事にしながら新しいものを作るにはちょうどいい場所だなと。
苦しい時期が続きましたが、実際にやってみて可能性を感じたのは、お客様との関係性の深さです。お客様の想いのこもったお金をお預かりし、それをいい会社に投資をし、その会社が本気で取り組む社会をよくする事業や、商品・サービスに込められた想いを知ることで共感の輪が広がり、「結い 2101」を通じた投資家としてのみならず、消費者としても応援する人がふえていきました。単に株価の値上がりを期待するのではなく、社会における存在価値をしっかりと認識する長期投資家が身近にいることは、投資先企業からみてもとてもありがたい存在です。そうなると投資先の企業様とお客様との信頼関係ができてきます。こういう金融の世界は私自身も初めて見ました。
創業期の経営が苦しかった時に、鎌倉投信の事業を支えてくれたのは、こうした投資家に加え、株主として支援くださった方々でした。鎌倉投信は、IPOを目指しているわけでもありませんので、鎌倉投信の理念に共感した純粋にエンジェル投資なんですね。ある上場会社のオーナー社長から出資いただいたとき、「君たちがやろうとしていることは正しいし、世の中に必要とされるものだ。応援するから、頑張れ。ただし、2つだけ約束してほしい」と言われました。「最初の志を曲げないこと。最後までやり切ること。この2つを約束してくれたら応援するから、頑張れ」と。そんな言葉をいただき、とにかくやれるところまでやろうと。
熊野:経営者としての孤独感とか、精神的なご苦労はどうですか?
鎌田氏:それはもちろん、日々あります(笑)ある程度の規模感になったときに、組織をどう作っていくかとか、新しい事業をどう立ち上げていくかとか。ゼロを1にするのはできたけれど、1を10にするのが実はけっこう難しい。人の育成なども含めて、まさに今そこが悩みです。アミタさんは時代に応じた新事業の立ち上げを何度も経験されていますよね。
熊野:そう言われて思い出しましたが、御社の資産運用部長の五十嵐和人さんが、2年前かな、アミタを分析して「ROIC(投下資本利益率)を重視されていますよね」とおっしゃったんです。僕はドキッとして「どういうことですか?」と聞いたら、「資産表には出ない投資が、収益性に見事に影響を与えていますよ」と言われて、「もうちょっと詳しく教えてください」と(笑)
市場ニーズを商品にしても間違いなくレッドオーシャンになるので、アミタは創業から一貫して、社会ニーズの市場化を経営戦略としています。
まだない市場を創るための先行投資の多くは、必要な関係性を構築する関係性投資です。でもそれは全部経費扱いになるので、資産表では絶対に見えないんです。しばらくはどんどん利益率が低くなるようにしか見えない。そうしてどこかのタイミングで、バッと利益が膨らむんですよ。しかし、これを説明するのがとても難しい(笑)あきらめていたときに、五十嵐さんに見事に言い当てられて、驚きましたね。「見ている人はいるんだな」と。
鎌田氏:それはね、見ていますよ。
熊野:あれは勇気をいただきましたね。それで、これはもう少しロジカルに説明しないといけないなと思い、若い経営陣や幹部社員に、関係性が増幅するような関係性投資の仕組みですね、それこそ投資金額とスケジュールと撤退条項というような基本的な部分から、教えるようになりました。
でも、最近本当に時代が変わってきていると肌で感じますよ。今年の4月に、「エコシステム社会機構(ESA(イーサ))」という、公民が連携して自律分散・域内循環型の「エコシステム社会」を作ることを目的とした一般社団法人を複数企業で立ち上げたんですけどね。以前だと「なんでそんなことするの?」「儲かるの?」みたいな反応でしたが、「それ大事ですね」「うちの会社、うちの自治体も入っていいですか」に変わりました。発足記念のシンポジウムは案内から1か月で500名以上の申し込みがあって、時代だなぁと。
アミタ自体も、なかなか理解されない中でも関係性投資を続けてきたことで、最近様々な場面でESG的な評価をしていただけるようになっています。
鎌田氏:そうですね、アミタさんといえば、ですもんね。
熊野:そこにワラントや第三者割当などの資本施策をうまく活用していければ、事業を持続的に拡大展開していける。そういうメカニズムを作りたいと思っています。なかなか言うようにはうまいことはいかないですけどね(笑)上場企業の持続的成長の1つのモデルを作ることができれば、上場企業が社会的市場に投資しやすくなるのではと考えています。CSR活動という経費扱いではなく、事業投資として社会的市場を捉える会社が増えれば、鎌倉投信さんの投資先も増えるんじゃないでしょうか。
鎌田氏:そう、まさにその関係性投資の部分でいうと、「結い2101」を立ち上げたときと、14年半経った今を比べると、企業を取り巻く環境が大きく変わってきています。
人的資本とか社会関係資本などについて、今はまだコスト的に捉えている会社もありますが、最終的にはこれらの関係資本を豊かにすることが資本コストを下げることにつながる時代に確実になってきています。資本コストが下がることで、企業の持続力を上げていく力になる。この関係性投資の意味、効能を投資家にきちんと説明できれば、目先の利益が少なくても株価が上がり、評価されるようになると思います。
なぜ、関係資本や環境資本が資本コストを下げることにつながるのか、それは1社単独では価値を創造できる時代ではなくなってきましたからね。個社を超えたマネジメント能力が、決定的に問われる時代になっています。例えば今多くの企業がサーキュラーエコノミーを重要テーマの1つにしていますが、この分野などはライバル会社とも手を組んだ方が双方にメリットがありますしね。アミタさんはすでに実践されている領域ですよね。
熊野:おっしゃる通り、産業のサプライチェーン全体をマネジメントしないと、いい原料も入ってこないし、いい商品もできない。特に環境やSDGsを言うのなら、1社でそういう原料を買ってサプライチェーンをマネジメントする力がありますかと。競合と組まないと、1社では絶対無理なんです。これに気づいているのは一部だけです。
鎌田氏:一部、徐々にですよね。
会社の成長性と連動するような経済的リターンをお客様に渡す
熊野:その一部の人以外を「そりゃそうだよね」と納得させられる、論理的で体系化する集まりをつくる気はないですか?
鎌田氏:僕には、そんな力はないですが(笑)、今自分たちの立ち位置でできることとして、いわゆるパーパス経営を促していくことかなと思っています。この前もCSR、企業の社会的責任とパーパス経営は何が違うんだという話になって、本質的には近い概念ですけど、やらなきゃいけない責任に比べると、パーパスは思考の拡張性、時間の長さ、ステークホルダーに対する価値共創の発想が出てくるので、そこが大きな違いです。
要は、「自分たちは何をやる会社なのか?」ということを明確に自覚する経営を促していくことが、関係資本を豊かにすることにつながるんじゃないかと、投資家の立場から思っています。
熊野:僕はパーパス経営というのは、パーパス(意思)のために情報を集めてくるので、その情報をインテリジェンス化するイノベーション力があると思っています。一方でCSRは、ある意味誰もが分かる情報をどう判断するかというだけで、最適なポジションを作っておしまいだと思っています。鎌田さんのおっしゃる通り、CSRは「運営」でもできるけど、経営はやっぱりパーパスで、これは並列の議論ではなくレイヤーが違うんです。
でも、儲けを出さないといけない側面もあるじゃないですか。その矛盾は、日々の経営でどうコントロールされているんですか?
鎌田氏:鎌倉投信は、「事業性と社会性を兼ね備えた『いい会社』」を選定する際、本業を通じて社会に貢献する「社会的価値」、会社の持続力を量る「持続的価値」、わが社は何者であるかが明確な「個性価値」の3つの価値基準を重視しています。そうした会社が発展・成長すれば、社会は豊かになり、投資家のリターン、さらには鎌倉投信が資産運用事業から得られる収益も高まります。例えば、投資家のリターンについては、投資している会社について「これくらい持続的な成長性が期待できる」というのがみえると、逆算的に「株価に何%ぐらいの期待値を持てる」というのがわかります。現在、「結い 2101」の投資先は約70社ありますが、ROE(自己資本利益率)の平均値は8%ぐらいで、株式価値の持続力で測っても7、8%くらいになりますから、そのくらいの株式リターンは想定できます。熊野さんがおっしゃる通り、理念経営やパーパス、社員に対する社会的な動機付けは、イノベーションを生む源泉以外の何者でもありません。こうして、「いい会社」の持続的な成長性と連動するような経済的リターンをお客様にお渡しするようにしています。
あと、鎌倉投信の社員に対しても、心の満足度だけではなく、経済的なリターンも返していかなければいけないと考えています。そのためには、会社としてもうちょっと大きくならなくてはならないのですが、そこは簡単ではなく日々悪戦苦闘しています(苦笑)
熊野:大きくなるために「結い2101」のマーケットを広げないとですね。
鎌田氏:確かにそうです。いい会社をふやさないと。
熊野:今の日本には世界に打って出ている企業がほとんどありません。でももともと日本は、人々が関心を持っていないものを集めて、関心のあるものに変換して返すのがうまい、智慧の宝庫のような国です。ESG経営で、拡大生産ではなく品質の拡張生産をするために、範囲を決めて深掘りし、売上志向から利益率志向へと目線が変わったら、日本企業のポテンシャルは変わると思うんです。
鎌田氏:日本ならではの発想や智慧、そうですね。
これからは地域の自治体が民間企業と新しいまちづくりを確立する
熊野:最後にお聞きしたいことがあります。SDGsの文書の正式名は「Transforming Our World(我々の世界を変革する)」で、2015年に採択されたパリ協定から15年後の2030年に新しい世界になるための目標やメッセージを社会に掲げています。
その道中で、コロナパンデミックやウクライナショックがありました。しかし、日本は2030年にどのような未来を創造したいのか、ポストSDGsの具体像がありません。その解像度を上げいく必要があります。そこで僕らアミタは、これだけ複雑で極大化した社会を調和していくには自然界の知恵に学ぶしかないと、「エコシステム社会構想2030」を掲げたのですが、これについて前編でも少し触れていただきましたが、率直にどう思われますか?
鎌田氏:私たちもいろいろな日本の地域との関わりがありますが、地域が人口減少を食い止める点ではやっぱり限界があるので、小さく豊かな地域をどうつくっていくかだと思っています。信頼できる関係資本と衣食住が満たされる、小さいけれど豊かな経済圏のつながりで構成される社会空間が広がっていくことが、1つの社会モデルになると思うんです。
アミタさんの「エコシステム社会構想2030」はまさにそのモデルケースとしてチャレンジされていると思います。地域の自治体も自分たちだけではできないので、民間企業と一緒に、新しいまちづくりを確立していくんじゃないかなと、そんな予感はしています。
熊野:ありがとうございます。鎌田さんとは長いお付き合いですが、改めてこうして今回ゆっくりお話しできて、いろいろと一緒にやってみたいことの想像が膨らみました。今度、何か一緒にやりません?(笑)
鎌田氏:ゆっくりご相談させてください(笑)
熊野:ぜひ。今日は長時間ありがとうございました。
対談者
鎌田 恭幸(かまた やすゆき)氏
鎌倉投信株式会社
代表取締役社長
大学卒業後、日系信託銀行、外資系資産運用会社にて資産運用業務に従事。2008年11月に鎌倉投信株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。一貫して、投資や資産運用に係る仕事を通して、会社経営の在り方、金融や資本主義の在り方を見つめてきた。2010年3月、主として上場企業の株式を投資対象とした公募型の投資信託「結い2101(ゆいにいいちぜろいち)」の運用・販売を開始。2021年3月、これからの社会を創発する可能性を秘めたスタートアップを支援する私募型の有限責任投資事業組合「創発の莟(つぼみ)」の運用・販売を開始。
独自の視点で「いい会社」に投資し、多くの人と共にその発展・成長を伴奏・支援することによって、よりよい社会、よりよい未来の実現を目指している。
アミタグループの関連書籍「AMITA Books」
【代表 熊野の「道心の中に衣食あり】連載一覧
【代表 熊野の「道心の中に衣食あり」】に対するご意見・ご感想をお待ちしております。
下記フォームにて、皆様からのメッセージをお寄せください。
https://business.form-mailer.jp/fms/dddf219557820